落語と聞くと、古典芸能というイメージを持ってしまう方も多いのではないでしょうか?
確かに、江戸時代に原型ができ、現代まで受け継がれてきたものだと考えると、古典芸能なのかもしれません。
しかし、現在は昔から語り継がれている「古典落語」だけではなく、「新作落語(創作落語とも)」と呼ばれる、近年になって創られたものもあり、鑑賞するハードルは下がっているのではないでしょうか。
特に、現在は漫画やアニメの影響もあり、「プチ落語ブーム」と呼ばれる流行も生まれています。
そんな中、2025年6月1日に沖縄で全国各地の「社会人落語家」が集まり、落語を披露するイベント「ゆがふ寄席」が開催されました。
今回、私はスタッフとしてイベントに参加させていただいた立場から、イベントの様子を臨場感たっぷりにお届けします!

社会人落語とは?
社会人落語とは、本業を持つ社会人が趣味として行う落語のことをいいます。
プロの落語家とは異なり、落語協会などには所属せず、自主的に活動を行っているのが特徴です。
「落語サークル」や「社会人落語会」などが各地に存在し、地域のイベントや施設などでの口演、落語大会への出場などの活動を行っています。
演じる演目は古典落語が中心ですが、自作の創作落語を披露している人もいます。
また、衣装や高座(舞台)の形式にもこだわり、本格的な道具を揃える人も多いようです。
アマチュアながら、その熱意と技術は高く評価されています。
また、社会人落語は、観る側にとっても親しみやすく、「同じ社会人が演じている」という点に共感してくれる点も特徴のひとつです。
人前で話すスキル向上や、ユーモアのセンスを磨くために始める人も多く、ビジネスパーソンの新しい自己表現の場としても注目されています。
落語一笑の会について
「落語一笑の会」とは、沖縄を拠点に活動している社会人落語のグループです。
本業を持ちながらも落語をこよなく愛する人たちが集まり、練習を重ねて、ていきてきに寄席を開き、地域の人々に笑いを届けています。
「落語一笑の会」の精神的な支柱とも言えるのが、「おきらく亭はち好(はちこう)」さんです。
もともと東京でプロの落語家「春風亭柳條」として活動していましたが、のちにフリーとなり、2000年に沖縄へ移住。
そこから「おきらく亭はち好」と名乗り、沖縄に落語文化を根づかせるための活動を始めました。
はち好さんは、自ら高座に立つだけでなく、社会人を対象とした落語教室を主宰し、多くの落語ファンを育成。
彼の教えを受けた弟子の一人が「おきらく亭すい好」さんです。
すい好さんは、社会人として働きながら落語活動を続け、2024年には全国のアマチュア落語家が競う「社会人落語日本一決定戦」で準優勝という快挙を成し遂げています。
はち好さんは2021年に亡くなりましたが、その思いと技術は、すい好さんをはじめとする一笑の会のメンバーに受け継がれています。
落語を通して人と人がつながり、地域に笑いと温かさを届ける──「落語一笑の会」は、そんな願いを持って活動を続けているのです。
「第1回ゆがふ寄席」開演!
昨年まで「春の寄席」として開催されていたイベントが、今回、装いを新たに「第1回ゆがふ寄席」としてスタート。
沖縄県内だけでなく、全国各地から落語を愛し、落語を語り継ぐ社会人落語家の皆さんが一堂に会する大きなイベントです。
11時の開演から14時まで、3時間通して落語が語られます。
参加した社会人落語家の人数は、なんと18名!
さらに、漫才1組、謎かけを披露する方が1人、合計で20組21人が琉球新報ホールで、磨きに磨いた芸を披露してくれたのです。
江戸落語から上方落語まで、バリエーション豊富な噺が楽しめるとあって、開演前からお客様が詰めかけ、熱気があふれていました。
お気に入りの落語家さんからチケットを購入したという方、落語を初めて聞きに来るという方、老若男女、笑顔笑顔の大行列です。
とにかく、お客様皆さんの期待値の高さと、本当に落語を楽しみにして来ておられるのだなということが伝わってきました。
会場が爆笑の渦に!印象に残った場面をピックアップ!
ゆがふ寄席の口開けは、千葉家藤三郎さん。
上方落語の演目として有名な「大安売り」で、お客様の心を鷲掴みにしていました。
続いて登場したのは、現役の小学生落語家、おきらく亭しょうがっ好さんです。
小学生だからといってみくびってもらっては困ります。
その話ぶりは、大人顔負け。
会場内の爆笑をさらっていました。
会場の関心を一手に集めたのは、沖縄の落語家、南亭こったいさん。
なんと、うちなーぐちで「饅頭こわい」を披露してくれました。
沖縄では有名な「のまんじゅう」が登場するなど、沖縄県民の心をくすぐる演出に脱帽です。
南風亭れん太さんは、新作落語を披露してくれました。
ギターの名器として知られる「ギブソンJ-45」を主役にした、発想が面白い作品。
ギターが大好きで、ギターに挫折したことがある人には、グッとくる演目でした(笑)。
お昼の中入りが終わると、大トリに向けて、お客様の熱気と期待値も大きくなっていきます。
おきらく亭たい好さんも、お客様から大人気。
たい好さんを見に来たというお客様の声が飛ぶ中、天狗捌きを披露していました。
話芸はもちろん、表情や動きが素晴らしく、まるでお白洲の場に自分がいるような、はたまた巨大な天狗様の前にいるような雰囲気を感じました。
トリ前の一席を担当したのは、参遊亭遊若さんです。
社会人落語日本一決定戦で優勝を果たし、6代目桂文枝師匠から称賛されたこともある実力者。
演目は、落語の中でもファンタジー性の高い「あたま山」でした。
現在、なかなかやる人がいないと言われている「あたま山」。
お客様に想像させる力がないと、難しいと思われるこの話をやりきり、爆笑をさらった遊若さんの話芸の素晴らしさには脱帽です。

トリを務めるのは、沖縄の社会人落語家のトップランナー、おきらく亭すい好さん。
「お見立て」を披露。
花魁を演じる際の表情や言葉遣い、身のこなしが本当に素晴らしかったです。
目の前に、売れっ子の花魁が登場したような錯覚におちいってしまうほどでした。
すい好さんの優しい語り口は上品で、それが耳に心地よく、お客様を落語の世界にスッと誘っているように思われます。
社会人落語家の底力、ここにあり! 熱演がつないだ笑いの時間
大爆笑のうちに幕を閉じた「第1回ゆがふ寄席」。
「社会人落語家って言っても、アマチュアでしょ?」
そんな風に思っている人にほど、ぜひとも聞きに来てほしいイベントでした。
確かにプロではありませんが、仕事の合間を縫って日々大好きな落語に精進し、ひとつの話を作り上げていく真剣さは、プロ・アマ関係ないのではないでしょうか。
その証拠は、お客様の反応にあります。
今回、噺を披露した社会人落語家の皆さんに送られたのは、大爆笑と拍手喝采。
お客様は、大満足して笑顔で帰られていました。
社会人落語家と思ってあなどるなかれ。
皆さん、落語に対する真剣さ、愛情は決してプロの皆様にも引けを取りません。
「落語を聞いたことがない」
「落語は聞いてみたいけどハードルが高そう」
そう思っている方は、まずは社会人落語家さんの噺を聞いてみてはいかがでしょうか。
私たちと同じ目線から語られる落語も、味わい深く、楽しいものです。
これから、さらなる落語ブームを支えるのは、もしかすると皆さんの身近にいる、社会人落語家さんかもしれません。
第1回ゆがふ寄席 出演者一覧(出演順)
千葉家藤三郎
おきらく亭しょうがっ好
おきらく亭きゅう好
酢葉月亭ばじる
相模亭くり坊
南亭こったい
バランチャーム(漫才)
おきらく亭てぃだ好
南風亭れん太
五月亭一平
満福亭ゆ乃月
猪名川亭絹馬
千壱夜舞歌
ケーシー(なぞかけ)
悠悠亭東輔
おきらく亭たい好
猪名川亭風鈴
関大亭豆蔵
参遊亭遊若
おきらく亭すい好
場所:琉球新報ホール
総来場者数:381名