那覇市牧志にある、沖縄で一番大きな新刊書店であるジュンク堂書店那覇店。
地下から心踊るようなお囃子が聞こえてきます。
もちろん、書店内でお祭りが開催されているわけではありません。
賑やかなお囃子の正体は、当日(8月8日)開催される「金原亭杏寿 ミニ落語会」会場から流れてくるものでした。
沖縄出身の落語家は少ないのが現状。
立川笑二さん、北山亭メンソーレさんなど、本当に数えるほど。
そんな中、県出身の女性として初落語家となった杏寿さんが、なんと無料でミニ落語会を開催するとのことで、会場には多くの落語ファンはもちろん、杏寿さんのファンが詰めかけました。
今回は、ジュンク堂書店那覇店で開催された「金原亭杏寿 ミニ落語会」の様子をレポートします。

演目
- 子ほめ
- 平林(ひらばやし)
はじめに、今回のミニ落語会のプロモーターである西平ヒロトさんから注意事項の説明があり、ついに金原亭杏寿さんが高座に。
出囃子は「安里屋ユンタ」。
会場からは大きな拍手がわき起こります。
子ほめ
1つ目の演目は「子ほめ」です。
杏寿さんは、まくらとして落語の祖とされている、安楽庵策伝の話からスタート。
もともとは戦国大名のそばにいて、最後にオチをつけて笑わせる「落とし話」が落語の始まりだったことを説明しつつ、小噺を披露していきます。
杏寿さんが披露したのは、「桃太郎」をもじった有名な小噺です。
オチはここでは書きませんが(笑)、会場は爆笑に包まれました。
老いも(お芋)若きも、ちょっと下品なお話は笑いの琴線が刺激されてしまうようです(笑)。
グッと観客の心をつかんだ後、子ほめに入っていきます。
ちょっと抜けた登場人物である八五郎が、「ただの酒」にありつこうとご隠居さんを訪れる場面から始まります。
落語ファンにはお馴染みながら、初めて落語を聞く方にもわかりやすく笑えるお話。
このチョイスは、「さすが杏寿さん、わかってらっしゃる」と手を打ったファンも多かったのではないでしょうか。
八五郎は、ご隠居から人をほめれば、悪い気はしないもの。
あわよくば、お酒や食事をおごってくれるかもしれないと、ほめ方を教えてくれます。
良いことを教えてもらったと、早速誰かをほめてお酒と食事にありつこうと考えますが…。
オチに辿り着くまでにも、笑いを誘う場面でしっかりと笑いを取るのは「あっぱれ!」の一言に尽きるでしょう。
杏寿さんが、前座の期間をいかに真摯に落語と向き合って過ごしてきたのかが感じられます。
登場人物の演じ分けがとにかく上手い杏寿さん。
それもそのはず、杏寿さんはもともとタレントとして活躍しており、女優としても活躍されていた経歴があります。
演技レッスンの講師の方に勉強になるから、とすすめられた落語。
それが今の師匠たる金原亭世之介師匠だったそうです。
落語はイリュージョンだと語った偉大な師匠がいます。
杏寿さんの演じる落語は、まさにイリュージョン。
話に入った瞬間に、江戸時代の街並みや人々の暮らし、息遣いが感じられるのです。
僕は、一瞬にしてファンになってしまいました。
平林(ひらばやし)
ラストの演目は「平林」です。
こちらのまくらは、落語の所作について。
上下の使い分けや、成人と老人、子どもの演じ分けの仕方、手拭いや扇子を使った所作の解説をしてくれました。
ご本人は下手だとおっしゃられていた、そばの食べ方。
いやいや何の、堂に入っていました。
実は、社会人落語家として落語をしてみようとしている僕にとって、勉強になることばかり。
感謝しかありませんでした。
さっそく活かさせていただきます(笑)。
「平林」は、小僧の定吉が旦那に呼ばれ、手紙を届けてくれるように頼まれる場面から始まります。
記憶力が悪く、字が読めないという定吉と旦那の滑稽な会話に会場は笑いに包まれます。
旦那に説得された定吉は、手紙を大事に手に持って出かけていきます。
別のことを考えていると、宛名を忘れるからと「平林」さんの名前をつぶやきながら歩く定吉。
この定吉の可愛らしさを、杏寿さんがグイッと引き出していました。
本当に不思議なことに、杏寿さんが小僧さんである定吉にしか見えてきません。
会場にいた人は皆、確実に「杏寿=定吉」の公式が目に浮かんでいたことでしょう。
平林の面白いところは、会場全体が心地良いリズムに包まれること。
「平林」の読み方を忘れた定吉が、出会う人出会う人に違った読み方を教えられてしまい、最後はその読み方全部を、リズムをつけながら歩き回るという展開になります。
この「平林」の読み方が個性的で、語呂が良く、ついつい口ずさみたくなるものばかり。
思わず一緒に口に出したくなった人は、きっと周りにいたはずです(笑)。
両演目を聞いていて感じたのは、杏寿さんの落語への愛でした。
本当に、落語を楽しく話している姿が美しく、観客をグイグイと惹きつけます。
キラキラと輝く表情、コロコロと転がるように進んでいく会話。
演目を心の底から楽しんでいるのが、その瞳、表情から感じられました。
だからこそ、観客の皆さんもワクワクとした表情になり、大いに笑ったのだと確信しています。
質疑応答

ミニ落語会、最後は観客からの質問に杏寿さんが答える質疑応答のコーナーでした。
初めて落語を聞きにきたという方は、落語家の階級制度についての質問が。
杏寿さんは、丁寧に答えていました。
続いては、今月30日にある独演会についての質問と意気込みについて尋ねられていました。
なぜ独演会をこの日に至ったかについては、「この日が空いていたから」と会場を笑わせてくれた杏寿さん。
もちろん、この後しっかりと答えてくれていました(笑)。
是非とも、地元沖縄での独演会、成功させたいとの思いも熱く語っていました。
最後の質問は、落語家になったきっかけと、衝撃を受けた話について。
落語家になったきっかけは、先ほど書いたとおり、演技レッスンの講師の先生にすすめられて観に行った世之介師匠の高座です。
そこで聞いた「宮戸川」が心に残り、落語の道を志したとのことでした。
最後の質問に答え、お辞儀をする杏寿さんに大きな拍手が会場からわき起こり、「金原亭杏寿 ミニ落語会」は大団円を迎えました。
金原亭杏寿 独演会が8月30日にやってくる!
今回、金原亭杏寿さんの落語を聞き逃した!!
と思っている方に朗報です。
8月30日の14:00から、沖縄コンベンションセンター劇場棟にて開催されます。
詳しくは、金原亭杏寿さんのXなど、SNSでご確認ください。
さらに、8月15日の21時から金原亭杏寿さんが出演されたラジオ番組「ひがっすのひとつなぎラジオ」が再放送されます。
落語家としての歩みや、ここでしか聞けないお話も盛りだくさんの永久保存版です!
全国から「ListenRadio(リスラジ)」から聞くことができます!
Webサイトやアプリから聞くことができるので、ぜひお聞きください。
落語を自分自身が楽しみながら、その楽しさを伝える金原亭杏寿さん。
杏寿という名前には、フランス語で「エンジェル」の意味があるそうです。
世之介師匠の粋な計らいですね。
杏寿さんは、その名前のとおり、沖縄の皆さんと落語の縁つなぐ「エンジェル」として活躍してくれること間違いなし。
沖縄県出身で初の女性真打誕生を心から願い、応援しております。
まずは皆さん、8月30日の「金原亭杏寿 独演会」を、ぜひとも楽しんでください!